2020.12 サイトをOPENしました。

システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策(1)正式契約前に作業を開始してしまった!

 

前回の記事では、システム・ソフトウェア開発の委託契約でトラブルになる主な原因として、「正式契約前の作業開始」、「作業内容に不適合な契約形態」、「契約の不備」の3つ(※)があることをお伝えしました。

※参考:経済産業省「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集

 

ですが、どのようなトラブルがあるのかを知っていただけでは意味がありません。そこで、よくあるトラブルについて、原因と予防策を解説していきたいと思います。第一回目は「正式契約前の作業開始」についてです。

 

正式契約前に作業を開始してしまうのは、なぜ?

そもそも、なぜ、正式契約前に作業を開始してしまうのでしょうか? その理由は、システム・ソフトウェア開発の複雑さにあります。システム・ソフトウェア開発は、商品を仕入れて配送すれば終わり、チラシを作れば納品完了、というものではありません。

数十の工程に加え、条件の変更などに伴い、適宜、変更が必要になることもあるため、契約書にはいろいろな状況を想定した項目を盛り込んでおかなくてはなりません。そのため、契約書を作成し、交渉を経て締結に至るまでに、かなりの時間がかかってしまいます。

 

ですが、ベンダー(受託側)としては、正式契約の締結を待って作業を進めていたら、納期に間に合わせるためにタイトなスケジュールになったり、最悪の場合、納期に間に合わなくなる可能性もあります。このため、ある程度、正式契約になるという確信があれば、正式契約前に作業を始めてしまいます。

また、ユーザー(委託側)も、ほぼ契約が決まっているような状況(あとは社内の決裁待ちのような状況)であれば、作業を開始するようベンダー(受託側)に求めることもあります。

 

ひと昔前と比べると、大手のベンダー(受託側)などでは正式契約を締結するまでは作業を開始しないように徹底しているところが増えてきています。しかし、それでもまだ、正式契約前に作業を開始することは少なくありません。

 

正式契約前の作業開始が招くトラブルとは?

ベンダー(受託側)が正式契約前に作業を開始しても、そのあと正式契約となればあまり問題になることはありません。

 

ですが、条件が折り合わないなどの理由で正式契約とならない場合は、ベンダー(受託側)とユーザー(委託側)の間で、

  • ベンダー(受託側)がそれまでの作業に要した費用をユーザー(委託側)に請求できるのか
  • ユーザー(委託側)が正式契約を締結していないことを理由にその支払いを拒否できるのか

といった点をめぐってトラブルになることがあります。

 

過去の裁判では、どちらの言い分を認めるのかについては状況に応じて判断されています。とはいえ、正式契約を締結していなくても作業を開始したことについて何かしら合意があったと判断されれば、ベンダー(受託側)の請求が認められる(つまり、ユーザー(委託側)が報酬を支払わなくてはならない)こともあるので注意が必要です。

 

トラブルを防ぐには?

このようなトラブルを防ぐためには、どうしたらいいのでしょうか? ユーザー(委託側)ができることとしては、以下2点が考えられます。

  1. そもそも正式契約前に作業を開始することのないよう、迅速に正式契約を締結する
  2. 正式契約前に作業を開始する可能性がある場合は、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)で合意書などを交わしておく

 

迅速に正式契約を締結する

契約内容が複雑であるとはいえ、そもそも迅速に正式契約を締結すれば、こうしたトラブルはおきません。(それ以前に、納期に余裕を持たせる、作業開始を遅らせるといった、基本的な部分の検討も必要なことはいうまでもありませんが…)

 

契約書を自社で作成している場合、経済産業省や電子情報技術産業協会(JEITA)が公表しているものをベースにすることで作成時間が短縮できます。また、契約内容の確認を法務部門ですべて行うのではなく、判断が難しい事項については弁護士などの専門家に確認してもらうことで交渉の時間を短縮できます。

ユーザー(委託側)の社内決裁に時間がかかるのであれば、決済フローの見直しも有効な手段のひとつです。

 

※参考:経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書<第一版、追補版、モデル取引・契約書活用ツール>

※参考:電子情報技術産業協会(JEITA)「2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説

 

正式契約前に作業を開始するときは合意書などを交わしておく

本来は正式契約を締結してから作業を進めるべきですが、どうしても正式契約前に作業を開始しなければならない、ということもあります。この場合は、作業を開始することについての合意書など交わして記録として残しておく必要があります。

 

合意書では以下のような項目を記載しますが、

  • 正式契約に先立って作業を開始する
  • 仮に正式契約に至らなかった場合にはユーザー(委託側)はベンダー(受託側)に対してその作業の対価を支払う

詳しくは、経済産業省が仮発注合意書としてフォーマットを公開していますので、参考にしてみてください。

※参考:経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書(第一版)」(131ページ)

 

まとめ

システム・ソフトウェア開発の委託契約でトラブルになる3つの原因の1つ、「正式契約前の作業開始」については、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)の双方が意識すれば防ぐことができるものです。しかし、納期やリリースの関係上、どうしても作業を開始しなければならないこともあります。

そもそも迅速に正式契約を締結すべきですが、それが無理であれば、作業を開始することについての合意書などを交わすことを検討してみていただければと思います。

 

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社

会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士