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準委任契約の業務委託契約書の作成方法と注意点

 

準委任契約とは、業務を委託する企業側から言えば、自社の業務を他社やフリーランス、副業者などにアウトソーシングする際に締結する契約のことであり、いわゆる業務委託契約の1つです。

この記事では、準委任契約がどのような契約であるのか、また、業務を委託する企業側としての業務委託契約書の作成方法、準委任契約の注意点について説明します。

 

*記事内の委任者・受任者の表記について

  • 委任者=発注側、クライアント。通常は企業のことが多い
  • 受任者=受注側。フリーランスや副業者など個人のほか、企業が受託することもある

 

準委任契約とは?

業務委託契約は法律上の用語ではありませんが、一般的には、民法上の委任契約、準委任契約、請負契約の3つの契約を総称する言葉として使われています。

まずは、そもそも準委任契約とはどのような契約であるのかについて説明します。

 

準委任契約とは?

準委任契約の前に、委任契約について説明します。委任契約とは、民法第643条において「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによってその効力を生ずる。」とされている契約のことで、例えば、弁護士に訴訟代理を依頼する契約などが挙げられます。

一方、準委任契約とは、民法第656条において「委任の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。」とされている契約のことで、例えば、社内システムの保守をするといった契約などが挙げられます。

 

履行割合型と成果報酬型がある

この委任契約と準委任契約は、2020年4月1日施行の改正民法により、それぞれ、事務処理の労務に対して報酬が支払われる履行割合型と、事務処理の結果として達成された成果に対して報酬が支払われる成果報酬型に区分されました。

履行割合型は、これまでの委任契約・準委任契約と同様の考え方であると言えます。一方で成果報酬型は、委任契約でいえば弁護士に訴訟代理を委任して勝訴した際に成功報酬を支払う契約などにあたると考えられます。また準委任契約でいえば、仕事の完成を目的とする契約である請負契約に近い契約であるといえます。

 

業務委託契約書(準委任契約・履行割合型)の作成方法

業務委託契約書に盛り込む条項は、委任契約、準委任契約、請負契約のどの契約に該当するのかによって異なります。ここでは比較的締結することが多い、準委任契約・履行割合型(成果物の納品なし)の作成例と、特に注意して記載すべき条項について説明します。

 

業務委託契約書(準委任契約・履行割合型)のサンプル

準委任契約・履行割合型の一般的な業務委託契約書のサンプルをご用意しました。

 

特に注意すべき条項

準委任契約・履行割合型の業務委託契約書を作成するに当たって、法改正部分など特に注意して記載すべき条項について説明します。

 

委託料等

業務委託の対価となる委託料や支払期日、支払方法(指定口座への振込みなど)、支払いにかかる手数料の負担(一般的には委任者が負担)について記載します。

また、受任者が業務を進めるうえで必要になる費用(交通費など)については、委任契約・準委任契約は委任者が負担、請負契約は請負人が負担することが一般的な原則になっています。委託料等の項目では、どのような取り扱いにするのかについて記載します。

 

途中終了時の委託料

中途解約については、委任契約・準委任契約の場合には民法上、双方がいつでも申し出ることができるようになっています。

しかしながら、中途解約について委任者に責任があるのであれば、受任者は報酬を全額請求できます。いずれにも責任がない場合には、受任者は既に行った履行割合に応じて報酬を請求できるようになっています。

また、2020年4月1日施行の改正民法において履行割合型、成果報酬型とも受任者に責任がある場合であっても、受任者は一定割合の報酬を請求できることになりましたので、そのあたりを整理して明確に記載します。

 

再委託

委任した業務を第三者に再委託されると、期待していた業務にならなかったなど委任者が損害を被ることがあるため、委任者としては一般的に再委託を制限する旨を記載します。

この再委託については、これまで民法に明確な規定がありませんでしたが、2020年4月1日施行の改正民法(民法第644条の2第1項)では、「委任者の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」には再委託を可能とすることが規定されました。このため委任者としては、再委託を原則禁止としつつ、事前に申し出があれば許可することもあるなどとしておく必要があります。

 

契約の解除

委任契約・準委任契約では、双方がいつでも契約を解除できるものの、相手方に不利な時期などに解除したときは、損害賠償責任を負わなければならないことになっています。そこで契約に違反した場合などに、受任者に要求することなく解除できる場合を明確に記載しておきます。

 

準委任契約の注意点

準委任契約を締結するにあたって、特に注意すべき点は次のとおりです。

 

受任者に対する指揮命令権はない

準委任契約は委任する業務そのものを受任者に任せる契約であるため、委任者は受任者に対して指揮命令権はありません。つまり、受任者は契約書のとおりに業務を進めるだけということです。

たとえば、業務を委任した会社の社員やフリーランスの者を自社内に常駐させることがありますが、常駐させていたとしても、その者に対して直接的な指示を出すことはできません。準委任契約でこれを行うと、いわゆる偽装請負と同様に双方が法的に責任を問われます。

自社の指揮命令下に置くためには、労働者派遣事業の許可を受けた事業所から派遣労働者を受け入れるか、その者を雇用しなければならないということです。

 

受任者に成果物を納品する義務はない

準委任契約・成果報酬型であっても、請負契約と違って受任者には仕事を完成させる義務はなく、善管注意義務(善良な管理者の注意をもって受任した事務を処理する義務)にとどまります。

当然ながら準委任契約・成果報酬型でも目的物が納品されなければ、報酬を支払う必要はありませんが、受任者に債務不履行の責任を問うことはできません。

 

中途解約は自由にできるがリスクもある

準委任契約では双方がいつでも契約を解除することができます。しかしながら、受任者にとって不利な時期(既に業務に着手しているなど)に解除すれば損害賠償責任が生じますし、報酬についても全額または一定割合の支払いが必要になりますので注意が必要です。

 

まとめ

自社の業務をアウトソーシングする際には、相手方と準委任契約か請負契約を締結することが多いと言えますが、準委任契約に成果報酬型が導入されたことで準委任契約と請負契約の使い分けが難しくなっています。

どちらの契約を締結するのかによって双方の責任の度合いが異なってくるため、依頼する業務内容によって適切な契約方法を選択し、契約書には必要な条項を正しく盛り込むようにしましょう。

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士