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偽装請負(1)偽装請負とは?労働者のリスクや企業に対する罰則

 

偽装請負とは一般的に、形式上は業務委託契約を締結して、その実態は労働者派遣であることを言い、労働者派遣法などの法律に抵触する違法行為です。

この記事では、偽装請負の概要と偽装請負における労働者のリスク、また、企業に対する罰則などについて解説します。

 

偽装請負とは?

「偽装請負」という言葉は法令上の用語ではないため、明確な定義はありませんが、労働局などの説明では、「形式的には請負契約などの業務委託契約であるものの、実態としては労働者派遣であること」などとされています。

つまり業務委託契約を締結して、委託側が受託側の労働者を常駐させるなどして指揮命令下においている状態ということです。

※「偽装請負」という言葉にかかわらず、形式上、締結する業務委託契約が準委任契約である場合にも違法行為には変わりありませんので、偽装請負になります。(「偽装準委任」と言うこともあります。)

 

なお、他の企業がかかわらない個人事業主やフリーランスなどと直接、業務委託契約を締結して、その実態は雇用である場合も偽装請負と言えますが、違法に派遣されている労働者とは少し立場が異なりますので、この記事では上記の違法派遣タイプの偽装請負について説明しています。

 

企業が偽装請負を行う理由

なぜ企業が違法である偽装請負を行うのかと言うと、労働者派遣としての手続きを踏むと、派遣元、派遣先ともに煩雑な手続きや労働者に対する責任が増え、さまざまな制約を受けることになるからです。

 

派遣元の責任、制約

  • 厚生労働大臣の許可を受けなければならない
  • 自社で雇用する労働者を派遣したあと、派遣期間中は派遣元、かつ、雇用主として各種の責任を負う
  • 同一企業同一部署には原則3年しか派遣できないという派遣期間の制限などがあり、派遣期間が終了するたびに手続きが発生する

 

派遣先の責任、制約

  • 派遣元と労働者派遣契約を締結して派遣労働者を受け入れれば、その者を指揮命令下に置くことができるが、労働時間を管理して派遣元に報告しなければならない
  • 安全に働けるように配慮することが必要
  • 派遣期間中に契約を解除することはかなり難しい

 

企業が偽装請負を行う理由は、上記の労働者派遣として求められる煩雑な手続きや労働者に対する責任などを逃れるためであり、業務委託契約上の委託側から言えば、都合の良いときにいつでも契約を解除できるようにするためだといえます。

 

偽装請負と労働者派遣・業務委託の違い

偽装請負に該当するかどうかは、業務委託契約上の委託側が受託側の労働者を指揮命令下に置いているかどうかで判断されます。

あらためて、偽装請負と正規の労働者派遣、業務委託において、業務に従事する労働者に対する指揮命令権などがどのようになっているのかを整理すると、次の図のようになります。

 

つまり、他企業の労働者を指揮命令下に置くためには、本来は労働者派遣でなければならないところを、偽装請負では、違法に委託側が受託側の労働者を指揮命令下に置いているということです。

 

偽装請負における労働者のリスク

偽装請負の中で業務に従事する労働者のリスクとしては、上記のとおり、受託側の労働者の責任者が誰であるのかが不明確になり、その立場が不利になることです。

受託側の労働者が、受託側で正社員または常勤形態で雇用されていれば、受託側はその労働者を社会保険に加入させるなど各種の雇用責任を負うことになります。

しかしながら、偽装請負では受託側と受託側の労働者が雇用関係にない(個別に業務委託契約を締結するなど)こともありますし、労働者の斡旋だけをして、個人事業主として委託側と業務委託契約を締結させるような業者もあります。そのような労働者であれば、次のようなリスクがあります。

 

社会保険に加入できない

委託側に常駐して、その企業の従業員のように働いていても、社会保険には加入させてくれませんし、福利厚生なども利用することはできません。

 

長時間労働になりやすい

業務委託契約である以上、委託側が支払う報酬は契約で定められた金額になりますので、業務の進捗が遅れている場合などは委託側から残業を強いられて長時間労働になる可能性があります。(雇用関係にある労働者と違って、時間外手当も出ません)

 

突然、契約が解除される可能性がある

業務委託契約が請負契約であるのか、準委任契約であるのかによって契約解除の考え方は異なりますが、基本的にはどちらの場合でも、個人事業主として締結している場合には、突然、契約を解除される可能性があります。

 

損害賠償を請求される可能性がある

業務委託契約が請負契約で、かつ、個人事業主として契約を締結している場合には、納品した成果物に契約に適合しない部分があれば、委託側から契約に適合するように見直しを求められることもあります。それができなければ損害賠償を請求されたりといった、さまざまな責任を負うことになります。

 

偽装請負を行った企業に対する罰則

偽装請負が発覚すると、関係する企業には労働者派遣法などの法律により次のような罰則が科される可能性があります。

 

労働者派遣法上の罰則

労働者派遣法により、派遣元と派遣先に科される主な罰則は次のとおりです。

※労働者派遣契約を締結していない偽装請負でも、実態として労働者派遣とみなされれば、当事者は労働者派遣法上の派遣元、派遣先とみなされます。

 

派遣元に対する主な罰則

派遣元の主な違反事項に対する罰則は次のとおりです。

 

主な違反事項

罰則

派遣禁止業務(港湾運送業務や建設業務など)への労働者の派遣(労働者派遣法第4条第1項違反)

1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法第59条第1号)

労働者派遣事業を無許可で実施(労働者派遣法第5条第1項違反)

1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法59条第2号)

派遣元責任者の未選任(労働者派遣法第36条違反)、派遣元管理台帳の未作成(労働者派遣法第37条違反)等

30万円以下の罰金(労働者派遣法第61条第3号)

そのほか、厚生労働省からの行政指導(助言、指導、勧告)や行政処分(改善命令、事業停止命令、許可の取消し)の対象にもなりえます。(労働者派遣法第48条、第49条、第14条)

 

派遣先に対する主な罰則

派遣先の主な違反事項に対する罰則は次のとおりです。

※労働者派遣法上、派遣先にも多くの義務がありますが、罰則が規定されているものはあまりありません。

 

主な違反事項

罰則

派遣先責任者の未選任(労働者派遣法第41条違反)、派遣先管理台帳の未作成(労働者派遣法第42条違反)等

30万円以下の罰金(労働者派遣法第61条第3号)

そのほか、厚生労働省からの行政指導(助言、指導、勧告)や企業名公表の対象にもなりえます。(労働者派遣法第48条、第49条の2第1項、第49条の2第2項)

 

罰則ではありませんが、派遣先は偽装請負で労働者を受け入れたり、その他労働者派遣法の一定の規定に違反したりすると、「労働契約申込みみなし制度」(労働者派遣法第40条の6)というものが適用され、その派遣労働者が望めば、直接雇用しなければならなくなります。

 

職業安定法上の罰則

職業安定法では、厚生労働大臣の許可を受けた労働組合などが無料で行うものを除き、労働者供給事業を行うこと、また、その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させることが禁止されています。(職業安定法第44条、第45条)

そもそも労働者派遣事業とは、上記の労働者供給事業の例外として認められている事業にあたります。そのため労働者派遣事業の許可を受けていなければ、上記の法律にも抵触し、派遣元、派遣先の双方(直接指示をした者なども含む。)が、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科される可能性があります。(職業安定法第64条第9号)

 

労働基準法上の罰則

労働基準法では法律に基づいて許される場合を除き、業として他人の就業に介入して利益を得ること(いわゆる中間搾取)が禁止されています。(労働基準法第6条)

偽装請負では受託側などがこの中間搾取を行っていることが多いですが、これを行うと、受託者側と幇助(手助け)した委託側の双方が、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。(労働基準法第118条第1項)

 

まとめ

偽装請負とみなされるかどうかのポイントは、業務委託契約を締結した上で委託側が受託側の労働者を指揮命令下に置いているかどうかです。

業務委託契約を締結して、他社の従業員や個人事業主を自社に常駐させている場合は、業務上の細かな指示を出していないかに注意をしてください。また逆に、自社の従業員を他社に常駐させている場合は、自社で指揮命令などコントロールできているのかなどについて十分に注意するようにしましょう。

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士