2020.12 サイトをOPENしました。

業務委託契約における基本契約と個別契約の違い(1)それぞれの役割と個別契約を締結するケース

 

業務委託契約に限った話ではありませんが、同じ相手と継続的に取引を行う場合に、その取引全体に共通して適用される事項についてはあらかじめ基本契約で定め、取引ごとに適用される事項については個別契約で定めることがあります。

では、どのような場合に個別契約を結べばいいのでしょうか? この記事では、業務委託契約における基本契約と個別契約の違いなど、企業(発注側)の担当者として理解しておくべきことについて説明しています。

 

基本契約とは

基本契約とは、

  • 同じ相手と継続的に取引を行う
  • かつ、取引ごとにその内容が変わる

場合に、取引全体に共通して適用される事項について定める契約のことです。業務委託契約や売買契約などでよく使われています。

 

基本契約では一般的に、

  • 委託する業務の大まかな内容や取引全体に共通して適用される、契約内容の変更や権利の帰属、保証および責任について
  • 委託料の支払い方法などの詳細については個別契約によること

を定めます。

 

この基本契約を締結することで、その後、取引をするたびに、面倒な契約書を取り交わす必要がなくなるというメリットがあります。

 

個別契約とは

個別契約とは、上記の基本契約があることを前提として、取引の都度、締結する契約のことを言います。

個別契約では一般的に、委託する業務の詳細や作業スケジュール、委託料およびその支払い方法などについて定めます。

契約書は、個別契約書という形で作成することもありますが、基本契約書で「発注書と請書などのやりとりで個別契約が成立する」としておくことも可能です。

 

基本契約と個別契約、どちらが優先される?

基本契約と個別契約の規定に相違が生じた場合に、どちらの規定を優先して適用すべきかについて問題になることがあります。

 

これについては、個別契約は基本契約を締結した後に締結することから、個別契約の規定が優先するという説と、基本契約の規定と異なる規定をした個別契約は基本契約に違反し、そもそも無効とする説があり、その解釈が分かれています。

実際にこの問題に直面した場合、相手との話し合いで、いずれかを適用するという判断に至ることもありますが、多くの場合はトラブルになります。

 

このため、あらかじめ、どちらの規定を適用するのかを基本契約書で明確にしておくことが必要です。

 

例:個別契約の規定を優先させたい場合

基本契約書に「本契約は、委託者と受託者との間に締結される〇〇〇〇基本契約に共通して適用される。但し、同契約に定める事項と個別契約で定める事項に相違が生じた場合には、個別契約の規定を優先して適用するものとする。」などと規定しておく。

 

業務委託契約で基本契約と個別契約を締結する場合とは?

基本契約と個別契約を分けて締結するのは、最初に説明したとおり、同じ相手方と継続的な取引が想定されている場合です。そもそも、継続的な取引が想定されていない場合(単発の業務委託などである場合)には、1つの契約でその詳細を定めて合意するのみで問題ありません。

 

なお、業務委託契約として、基本契約と個別契約を分けて締結するのは、一定の業務そのものを委託する準委任契約、一定の成果物の納品までを委託する請負契約、どちらのケースもありえます。

 

たとえば、コンサルティング契約を準委任契約で締結する場合。

  • 基本契約:大枠としてコンサルティングを委託することと、契約全体として共通する事項を定める
  • 個別契約:具体的にどのようなコンサルティングを委託するのか、また、その委託料や支払い方法などについて定める

 

次は、ソフトウェアやシステム開発などを請負契約で締結する場合。これらの契約は、準委任契約も含まれることも多いため少し複雑です。

どういうことかというと、ソフトウェア開発を委託する場合には、一般的に委託する業務としては、「要件定義」、「システム設計」、「ソフトウェア開発」、「ソフトウェア運用準備・移行支援業務」など多くの業務を段階的に委託することになります。

本来は業務それぞれで別個の契約を結ぶ必要があり、「ソフトウェア開発」なら請負契約になりますが、「要件定義」などについては準委任契約となります。

*準委任契約と請負契約の違いについては、以下の記事をご覧ください
業務委託契約の請負契約と委任・準委任契約の違い

 

このため、

  • 基本契約:契約全体として、請負契約あるいは準委任契約となることを踏まえて幅広く定める
  • 個別契約:委託する業務ごとに請負契約または準委任契約についての内容を定める

といった契約が必要になります。

※上記では、単純なケースについて説明していますが、複数のベンダー(受託会社)が係わる場合にはさらに複雑な契約になります。

 

まとめ

契約書を作成して、その内容を双方で確認するのはかなり面倒ですが、同じ相手と継続的に取引を行う場合、かつ、取引ごとにその内容が変わる場合には、基本契約を締結することで、取引の都度、詳細な契約書を作成する必要はなくなります。

ただし、同じ相手との継続的な取引であっても、委託する業務の内容が毎回、同じであれば、1つの契約で管理(自動更新でなければ、更新手続きは必要)することもできますので、実情にあわせて効率的な契約方法をご検討いただければと思います。

 

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士