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業務委託契約における基本契約書と個別契約書の違い(2)基本契約と個別契約で定める項目

 

前回の記事では、業務委託契約における基本契約と個別契約の違いなど、企業(発注側)の担当者として理解しておくべきことについて説明しました。

この記事では、基本契約書と個別契約書において、それぞれ具体的にどのような事項を定めたらいいのか、ソフトウェア開発の業務委託契約を例にして説明いたします。

 

基本契約書で定める事項

ソフトウェア開発の業務を外部に委託する場合、一般的に、「要件定義」、「システム設計」、「ソフトウェア開発」、「ソフトウェア運用準備・移行支援業務」などを、段階的に進めてもらうことになります。

上記の各業務を一括して契約することもありますが、ここでは、各業務に共通する基本契約を締結し、業務ごとに個別契約を締結する場合の基本契約書で定める場合の、主な事項について説明します。

※ソフトウェア開発の基本契約書の詳細については、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が公開している「ソフトウェア開発モデル契約の開発【2020年4月1日施行 改正民法対応版】」をご覧ください

 

 

基本契約書の適用範囲・個別契約との関係

上記で説明した各業務に対して、基本契約書で定める事項が適用されるほか、個別契約書で定める事項も適用されることを規定します。

また、委託者(発注側)と受託者(受注側)は、個別契約書において基本契約書と異なる事項を定めることができること、その場合、個別契約書で定める事項が基本契約書で定める事項に優先することなどを規定します。

 

個別契約の締結

委託者(発注側)と受託者(受注側)は、各業務に着手する前に、具体的な作業内容や契約類型(請負契約または準委任契約)、作業期間、委託料およびその支払方法などの取引条件を定め、個別契約を締結することを規定します。

 

委託料およびその支払方法

委託者(発注側)が受託者(受注側)に支払う委託料およびその支払方法については、個別契約書で定めることを規定します。

 

作業期間または納期

各業務の作業期間や作業工数(作業量)、納期については、個別契約書で定めることを規定します。

 

再委託

  • 受託者(受注側)は、その責任において、各業務の全部または一部を第三者に再委託できる
  • 受託者(受注側)が再委託するにあたっては、基本契約に基づいて受託者(受注側)が委託者(発注側)に対して負う義務と同様の義務を再委託先に負わせる契約を締結する

ことなどについて規定します。

 

なお、準委任契約の再委託については、民法上、当事者の双方が別の定めをしない限り、委託者(発注側)の許可を得た場合か、やむを得ない場合にしかできないことになっています。しかしながら、ソフトウェア開発の業務は直接契約をした受託者(受注側)だけで完結できることは少ないため、一般的には上記のように再委託を原則可としておくことが多いと言えます。

 

連絡協議会の設置

業務が終了するまでの間、委託者(発注側)と受託者(受注側)が業務上の問題点やその解決方法など、必要な事項を協議するために連絡協議会を設置すること、また、その開催頻度や双方の出席者が誰であるのかなどについて規定します。

 

各業務の実施方法

「要件定義」、「システム設計」、「ソフトウェア開発」、「ソフトウェア運用準備・移行支援業務」などの各業務について、具体的にどのような流れで実施していくのかについて規定します。

 

契約内容等の変更

  • 基本契約および個別契約の内容の変更については、委託者(発注側)と受託者(受注側)が協議の上、書面により変更契約を締結することによってのみ行うことができる
  • システム仕様書や検査仕様書などの内容を変更する場合の手続き

などについて規定します。

 

権利の帰属

受託者(受注側)が基本契約および個別契約に従って委託者(発注側)に納入する物の所有権について、

  • 個別契約で定める時期(委託料が完済されたときなど)をもって受託者から委託者(発注側)へ移転する
  • 納入物の特許権その他の知的財産権、また、著作権をどちらの帰属とするのか

などについて規定します。

※納入物の特許権などをどちらの帰属とするのかについては、委託者(発注側)と受託者(受注側)の契約交渉上の立場によって変わってきます。

 

個別契約書で定める事項

上記で説明した基本契約書に対して、業務ごとの個別契約書では次のような事項を定めます。

 

  1. 具体的な業務内容
  2. 契約類型(請負契約であるのか準委任契約であるのか)
  3. 納入物の明細・納期・納入場所(請負契約の場合)
  4. 作業期間または作業工数(準委任契約の場合)
  5. 作業スケジュール
  6. 作業範囲の明細および委託者(発注側)・受託者(受注側)の役割分担
  7. 作業環境
  8. 委託者(発注側)が受託者(受注側)に提供する資料等
  9. 連絡協議会の運営に関する事項
  10. 委託料の額およびその支払方法
  11. 検査または確認に関する事項
  12. その他、個別業務の遂行に必要な事項

 

なお、個別契約書で定める事項は、一般的にはあらかじめ基本契約書で定めておきますが、業務ごとの個別契約が、請負契約(ソフトウェア開発業務など)であるのか、準委任契約(要件定義作成支援業務など)であるのかよって、定める事項が少し変わります。

 

基本契約書・個別契約書のフォーマット(雛形)

ソフトウェア開発の基本契約書と個別契約書のフォーマット(雛形)は、官公庁や関係企業団体などからさまざまなものが公開されていますが、電子情報技術産業協会(JEITA)のホームページのものが使いやすいと思います。以下のリンクからワード形式でダウンロードできます。

※参考:一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説

 

ただし、このフォーマット(雛形)は、そのまま利用できるわけではなく、契約の実態に合わせて変更しなければなりません。ソフトウェア開発の業務委託について一定の知識がない場合には、弁護士や行政書士などの専門家に相談してください。

 

まとめ

業務委託契約で基本契約と個別契約に分けて契約を締結する場合、基本契約書には、委託する業務全体に適用する事項や業務ごとに個別契約を締結することなどについて定め、個別契約書には、業務ごとに適用する事項を定めます。

なお、今回、説明したソフトウェア開発の業務委託契約における基本契約書と個別契約書をどのように整理するのかについては、高度な専門的知識が必要になりますので、専門家に相談することをお勧めします。

 

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士