2020.12 サイトをOPENしました。

請負契約の業務委託契約書の作成方法と注意点

 

請負契約とは、業務を発注する企業側から言えば、建設工事や自社の業務をアウトソーシングするために、専門業者やフリーランス、副業者などと締結する契約のことであり、いわゆる業務委託契約の1つです。

この記事では、請負契約がどのような契約であるのか、また、業務を発注する企業側としての業務委託契約書の作成方法、請負契約の注意点について説明します。

 

請負契約とは?

まずは、そもそも請負契約とはどのような契約であるのかについて説明します。

 

請負契約の民法上の定義

請負契約とは、民法第632条において「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」とされている契約のことを言います。

一般的には、この請負契約と委任契約(民法第643条)、準委任契約(民法第656条)の3つの契約を総称して業務委託契約とされていますが、業務委託契約は民法上の用語ではありません。

 

請負契約の締結例

業務を発注する企業側として請負契約を締結する例としては、次のような業務を社外に発注する場合が考えられます。

  • ホームページ制作
  • 広告制作
  • ソフトウェア・システム開発
  • 自社ビルの建設工事
  • オフィスの改装工事

 

つまり請負契約とは、何かしらの仕事を完成(目的物を納品)して欲しい場合に締結する契約であり、原則としてその目的物が納品された時点で報酬を支払うことになります。

 

業務委託契約書(請負契約)の作成方法

請負契約として業務委託契約書に盛り込むべき条項は、発注する業務の内容などによって異なります。ここでは一般的な業務委託契約書のサンプルをご紹介するとともに、あわせて、2020年4月1日に施行された改正民法の影響を受ける条項のうち、特に注意すべき条項ついて説明します。

 

業務委託契約書(請負契約)のサンプル

請負契約の一般的な業務委託契約書のサンプルをご用意しました。

 

 

※このサンプルは、一定の業務を繰り返して発注することを予定している場合に、個別に締結する各契約についての共通ルールを定めた基本契約書(注文者側に有利に整理)です。

※まず、基本契約書で契約を締結することで、その後は簡易な発注書や請書などによって発注できるようになります。

 

特に注意すべき条項

2020年4月1日に施行された改正民法の影響を受ける条項のうち、特に注意すべき条項ついて説明します。

※改正内容をすべて知りたい場合は、下記の法務省のホームページでご確認ください。

【参考】法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

 

契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)

これまでの請負人が負っていた瑕疵担保責任(納品した目的物に瑕疵があった場合の責任)が契約不適合責任に変更され、次のような見直しが行われています。(改正民法第562条~第566条ほか)

 

  1. 契約不適合があった場合の注文者の権利として、履行の追完請求(目的物の修補や代替物の引渡し、不足分の引渡しの請求)、代金の減額請求権損害賠償請求権解除権が明記された。
  2. 注文者が上記の権利を行使できる期間(改正前は目的物の瑕疵を知ったときから1年以内)について、目的物の種類・品質に関して契約の内容に適合しない場合には、1年以内に請負人に通知しなければ行使できなくなることが明記された。

※目的物の数量・権利に関して契約の内容に適合しない場合の権利行使期間については定めなし(消滅時効にかかる可能性はあり)

 

契約書においてこれまでのように「瑕疵担保責任」とすることは正しくありませんし、注文者側の権利も拡大していますので注意が必要です。

※「業務委託基本契約書(請負契約)のサンプル」の第10条(検査)参照

 

請負人の割合的支払請求

請負契約は仕事の完成をもって報酬を支払う契約ですが、請負人は仕事が完成しない限り、一切報酬を請求できないのかという問題がありました。

これについては判例を踏まえて、

  • 全体としての目的物が完成していなくてもその目的物に分割できる部分がある
  • その部分によって注文者が利益を受ける場合には、注文者は契約を解除することができず、請負人は報酬を請求できる

というのが実務上の運用になっていました。

 

今回の改正民法では上記の取り扱いが明文化され、次に該当する場合には、その部分を「仕事の完成」とみなし、「請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる」とされました。(改正民法第634条)

  1. 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき
  2. 請負契約が仕事の完成前に解除されたとき

 

注文者側としては、仕事が完成しないのであれば、なるべく報酬を減額させたいと思いますので、契約書には上記の規定どおりではなく、自社に有利になるように盛り込むべきと言えます。(相手方から修正を求められることもあります。)

※「業務委託基本契約書(請負契約)のサンプル」の第3条(業務委託料)第4項参照

 

請負契約の注意点

請負契約を締結するにあたっては、次の点に注意する必要があります。

 

改正民法を十分に理解する

上記で説明したとおりですが、2020年4月1日施行の改正民法ではこれまでの瑕疵担保責任契約不適合責任に変わるなど請負契約の整理が大きく変わっています。

これらの改正事項を正確に把握しておかなければ、契約書も作成できませんし、相手方が契約書を作成する場合には自社にとって不利な内容で契約を締結してしまう可能性があります。

自社に法務担当など法律に詳しい者がいない場合には、弁護士や行政書士、司法書士などの専門家にアドバイスを求めることも必要です。

 

請負人に対する指揮命令権はない

請負契約は発注した業務が完了するまで、そのすべてを請負人に任せる契約であるため、注文者は請負人に対する指揮命令権はありません。

たとえば、業務を発注した会社の社員やフリーランスの者を自社内に常駐させることがありますが、常駐させていたとしても、その者に対して直接的な指示を出すことはできません。請負契約でこれを行うと偽装請負とみなされて、双方が法的に責任を問われます。(委任契約・準委任契約でも同様です。)

自社の指揮命令下に置くためには、労働者派遣事業の許可を受けた事業所から派遣労働者を受け入れるか、その者を雇用しなければならないということです。

 

契約書には収入印紙の貼付が必要

委任契約・準委任契約では、著作権の譲渡がある契約や物品売買の委託などでない限り、契約書に収入印紙を貼付する必要はありません。ですが請負契約の契約書では、契約金額が1万円以上になる場合は収入印紙を貼付しなければなりません。

貼付する収入印紙の金額については、印紙税法において契約金額ごとに定められており、契約金額が100万円であれば200円の収入印紙、契約金額が1,000万円であれば1万円の収入印紙の貼付が必要です。

※契約金額ごとに定められている収入印紙の額については、下記の国税庁のホームページでご確認ください。

【参考】国税庁:印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

 

まとめ

2020年4月1日施行の改正民法によって、瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わるなど、請負契約についてはその整理が大きく変わっています。

契約書を作成するに当たっては、改正民法を十分に理解することが重要ですが、必要に応じて専門家にもアドバイスを求めるようにしましょう。

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士