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システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策(3)業務範囲を決めておかないとどうなる?

 

これまで2回に渡って、システム・ソフトウェア開発の委託契約において、よくあるトラブルと、その予防策についてお伝えしてきました。

 

第1回:システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策(1)正式契約前に作業を開始してしまった!

第2回:システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策(2)契約形態が作業内容に合っていない

 

第3回目となる今回は「契約の不備」(※)のうち、業務範囲をあいまいにしていることによるトラブルについて、原因と予防策を見ていきたいと思います。

※参考:経済産業省「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集

 

なぜ、業務範囲があいまいになるのか?

業務委託契約では、当然ながらその業務範囲を明確にしておかなければなりません。

たとえば、ある商品の販売を委託する契約であれば、業務範囲について契約書でも明確にしやすく、契約期間中にその範囲が変わることは少ないと言えます。

 

一方、システム・ソフトウェア開発の委託契約では少し事情が異なります。

そもそもシステム・ソフトウェア開発は、まだ世の中にない新しいものを開発するという性質から、進めていく中で仕様の見直しが必要になることが往々にしてあります。

つまり、契約時に定めた業務範囲も随時変わってくるということですが、そのことをユーザー(委託側)とベンダー(受託側)が十分認識しておかないと、業務範囲があいまいになり次のようなトラブルにつながることになります。

 

業務範囲をあいまいにしておくことで起こるトラブル

上記で説明したようにシステム・ソフトウェア開発の委託契約では、業務範囲があいまいになりやすいと言えます。しかも、このことが原因でユーザー(委託側)とベンダー(受託側)の間でトラブルが生じ、裁判にまで発展している例は少なくありません。

 

よくあるトラブルとしては、以下のようなものがあります。

  • ベンダー(受託側)が仕様変更に伴う追加作業の見積もりをユーザー(委託側)に提出したところ、ユーザー(委託側)が追加作業も当初の契約の範囲内だと主張する
  • 検収の段階でユーザー(委託側)から修正対応を求められたベンダー(受託側)が、追加作業としてその作業を行ったものの、ユーザー(委託側)は当初の契約の範囲内だと主張して追加費用の支払いを拒否する

 

いずれにしても、どこまでが契約上の業務範囲であるのかをユーザー(委託側)とベンダー(受託側)が共有できていれば防げた事例です。

 

トラブルを防ぐには?

システム・ソフトウェア開発の委託契約において、業務範囲に関するトラブルを防ぐためには、次のような対策を講じる必要があります。

 

一括契約ではなく多段階契約にする

システム・ソフトウェア開発は、一般的に「要件定義」、「設計」、「開発・実装」、「テスト」、「運用・保守」などの多くの作業工程があり、これらを順番に進めていきます。開発期間が1年〜2年以上に及ぶものもあり、途中で仕様が変更になったり、スケジュールが遅れたりすることもあります。そのため、一括で契約をしてしまうのはあまり得策とは言えません。

ただし、開発するものが小規模である場合や、ユーザー(委託側)側の契約当初に予算を確定させておきたいなどの事情から、上記の全工程を一括して契約することもあります。

こうした例外はあるものの、契約時点で定めた業務範囲は変更になる可能性が高く、一括契約にすることで、より業務範囲があいまいになりやすくなるといえます。

 

こうした事態を避けるには、以下の形で基本契約と個別契約に分けて、契約を結びます(これを「多段階契約」と言います)

  1. 全工程に共通する条件などについて合意する基本契約を締結
  2. 工程ごとに請負契約または準委任契約の個別契約を締結(業務範囲はこちらに記載)

 

このように工程ごとに個別契約を結んでおくことで、各工程における業務範囲が明確になり、状況を把握しやすくなります。(場合によっては、個別契約で定めた業務内容も変更しなければならないこともあります。)

 

業務範囲を変更する場合の手続きを定めておく

多段階契約にする場合、業務範囲が変更になることを想定して基本契約書に次のような規定を設けておく必要があります。

 

  • ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)が協議する場(一般的には「連絡協議会」などと言います。)を設けること。
  • ユーザー(委託側)またはベンダー(受託側)が仕様などについて変更が必要と判断した場合には、その変更の内容や理由などを記載した書面(一般的には「変更提案書」などと言います。)を相手方に提出すること。
  • 上記の書面が提出された場合には、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)は変更になる作業や費用などその可否について協議すること。

 

基本契約書と個別契約書における規定内容ついては、電子情報技術産業協会(JEITA)が公表している「2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説」や経済産業省が公表している「情報システム・モデル取引・契約書 第二版」などを参考にして、作成してみてください。

 

まとめ

システム・ソフトウェア開発の委託契約で業務範囲をあいまいにしないためには、一括契約ではなく、基本契約を締結したうえで、工程ごとに個別契約を締結する多段階契約にすべきです。

個別契約で工程ごとの業務範囲を明確にした上で基本契約で業務範囲を変更する場合の手続きを定めておくことで、業務範囲があいまいになるのを防ぐことができます。

 

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士