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システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策(2)契約形態が作業内容に合っていない

 

「システム・ソフトウェア開発でよくあるトラブルと予防策」の第二弾は、「作業内容に不適合な契約形態」(※)についてです。まずは、作業内容に不適合な契約形態とはどのような意味なのかについて、説明します。

※参考:経済産業省「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集

 

「作業内容に不適合な契約形態」とは

システム・ソフトウェア開発では、「要件定義」や「設計」、「開発・実装」、「テスト」、「運用・保守」など、膨大な数の工程を段階的に進めていきます。さらに、作業内容などについては状況に応じて見直しが必要です。

そのため、プロジェクトの開始前にベンダー(受託側)が工数(作業に必要な人数×時間)などを正確に見積もることは困難となります。そこで一般的には、全工程に共通する基本契約を締結したうえで、工程ごとにその作業内容に応じて請負契約または準委任契約の個別契約を締結することになります。(これを「多段階契約」と言います。)

 

ただし、次のような契約を締結してしまうと、作業内容に不適合な契約形態となってしまいトラブルにつながることがあります。(言い換えると、以下のような契約 = 作業内容に不適合な契約というわけです)

 

一括請負契約を締結した場合

契約を1回で済ませたい、また、ユーザー(委託側)が当初の段階で予算を確定させておきたいといった理由から、作業の全工程を一括請負契約として締結することがあります。

ですが、上記で説明したとおり、システム・ソフトウェア開発の作業は随時、見直し、追加が必要となります。つまり、作業開始前にすべてを一括請負契約するのは適していないといえます。(作業の変更がほぼないと想定される小規模の開発などを除く)

なお、一括請負契約ではベンダー(受託側)は追加になる作業も踏まえて見積もりを出さざるを得ないため、高額な契約額になってしまう傾向があります。(つまり、ユーザー(委託側)にとっても好ましい契約にならない場合があるということです。)

 

作業内容に応じた契約類型としていない場合

では、工程ごとに個別契約を締結していれば問題ないかというと、そうではありません。作業内容に応じて、ベンダー(受託側)に仕事を完成させる義務を負わせる請負契約、あるいは、比較的仕様変更が可能な準委任契約と分類して締結していなければ、作業内容に不適合な契約となってしまいます。

また、請負契約であるのか準委任契約であるのかが明確でない契約である場合、これも作業内容に不適合な契約に該当します。

 

※請負契約と準委任契約の違いについて詳しくは、以下の記事をご確認ください。

業務委託契約の請負契約と委任・準委任契約の違い

 

作業内容に不適合な契約形態であることによるトラブル

上記のように作業内容に不適合な契約形態になっていると、次のようなトラブルにつながる可能性があります。

 

一括請負契約を締結した場合

一括請負契約を締結して、当初の予定を大幅に超えるコストがかかることが判明すると、ベンダー(受託側)が対応できなくなり、プロジェクトが破たんする可能性もありますし、場合によっては目的としていたシステム・ソフトウェアが完成していなくても、ユーザー(委託側)がベンダー(受託側)のコストを負担しなければならないこともあります。

 

作業内容に応じた契約類型としていない場合

工程ごとに個別契約を締結したとしても、仮に、開発工程の契約を準委任契約で締結していれば、ベンダー(受託側)がその開発ができなかった場合でもユーザー(委託側)はベンダー(受託側)に報酬を支払わなければなりませんし、請負契約であるのか準委任契約であるのかを明確にせずに契約を締結していた場合にも状況によっては、ユーザー(委託側)はベンダー(受託側)に報酬を支払わなければならないこともあります。

 

トラブルを防ぐには?

上記のようなトラブルを防ぐためには、以下のいずれか、または両方の対策を講じることが有効です。

  1. 原則として一括請負契約は避ける
  2. 契約書に契約類型を明記しておく

 

原則として一括請負契約は避ける

作業内容に変更が想定されない小規模なシステム・ソフトウェア開発でない限り、一括請負契約は避けるべきです。全工程について共通する基本契約を締結したうえで、各工程の作業に入る都度、個別契約を締結するのがベストです。

 

契約書に契約類型を明記する

契約の類型が請負であるのか、準委任であるのかについては、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)の両者が契約書で確認できるようにしておかなければなりません。

これに対応するためには、全工程の共通ルールである基本契約書の中で、「個別契約書で具体的作業内容や作業期間、委託料やその支払方法などに加えて、契約類型(請負・準委任)についても明記にしなければならない」ことを規定しておきます。たとえば、以下のような形で記載をしておきます。

 

(個別契約)

第〇条 甲及び乙は、個別業務に着手する前に、甲から乙に提示された提案依頼書(RFP)及び乙から甲に提案した提案書、見積書を基礎として、当該個別業務について次の各号のうち必要となる取引条件を定め、個別契約を締結する。

① 具体的作業内容(範囲、仕様等)

契約類型(請負・準委任)

③ 作業期間、作業工数(作業量)または納期

(以下略)

 

さらに個別契約書では、次のような形で契約類型を明記し、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)の双方がそのことを確認したうえで作業を開始します。

 

契約番号:○○○○

[ソフトウェア開発業務]個別契約書

 

甲及び乙は、甲乙間で締結した○○○○年○○月○○日付「ソフトウェア開発委託基本契約書」第○○○号にもとづき、基本契約書記載の本件ソフトウェアに関する[ソフトウェア開発業務]につき、以下の条件に従って甲が乙に委託し、乙がこれを受託することについて合意したので、本個別契約を締結する。

 

1. 作業内容:○○○○年○○月○○日付[「○○○○システム仕様書」]にもとづく[ソフトウェア開発業務]

2. 契約類型:請負

3. 納入物の明細・納期・納入場所:添付別表○記載のとおり

(以下略)

 

なお、電子情報技術産業協会(JEITA)で公表している「2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説」では、基本契約書や個別契約書の雛形もダウンロードできますので、ぜひ参考にしてください。

 

まとめ

作業内容に不適合な契約形態になるのを避けるには、一括請負契約ではなく、すべての工程に共通する基本契約を締結したうえで、各工程の作業内容に応じた契約類型(請負・準委任)の個別契約を締結するようにしてください。

また、個別契約書には契約類型を明記し、ユーザー(委託側)とベンダー(受託側)の双方がその契約類型を確認したうえで作業を進めるようにしなければなりません。

 

 

■この記事を書いた人
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士