働き方の多様化が進んできたことで、企業がフリーランスや副業者などに業務を委託することも多くなってきました。となると、報酬額をどのように決めるのかについて悩むことも増えてきているのではないでしょうか。
この記事では、フリーランスなどの報酬額が実際にどのように決められているのか(アンケート調査結果)を紹介したうえで、業務を委託する企業側として報酬額を決める際の注意点などについて解説していきます。
もくじ
フリーランスなどの報酬額の決定パターン
まずは、フリーランスなどの報酬額が実際にどのように決められているのかについてのアンケート調査結果を紹介したいと思います。
2017年に厚生労働省所管の独立行政法人である労働政策研究・研修機構が、8,256名の独立自営業者(フリーランスや個人事業主、クラウドワーカーなど)を対象に、就業実態についてのアンケート調査を行いました。その調査では、報酬額がどのように決定されているのかについても質問しています。
仕事別
次のグラフは、「事務関連」や「デザイン・映像製作関連」など計6種類の仕事別に報酬額の決定パターン(どのように報酬が決まったのか)をまとめたものです。
出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「「独立自営業者」の就業実態」
「取引先が一方的に決定した」が33.6%、「あなたや取引先以外の第三者が決定した」が8.8%となっていますが、逆に捉えれば、60%弱のフリーランスなどは報酬額の決定について何かしらの発言を行える環境にあるといえます。
6種類の仕事の中で、報酬額の決定について最も発言できているのは「IT 関連」(「取引先が一方的に決定した」が24.1%で最も低い)。逆に、報酬額の決定について最も発言できていないのは「事務関連」(「取引先が一方的に決定した」が40.6%、「あなたや取引先以外の第三者が決定した」が16.8%で最も高い)となっています。
※「取引先以外の第三者」とは、フリーランスなどを企業に紹介するエージェントなどであると考えられます。
専業・兼業別
次に、専業・兼業別に報酬額の決定パターンをまとめたものが次のグラフになります。
出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「「独立自営業者」の就業実態」
予想どおりではありますが、報酬額の決定について最も発言できているのは「専業」(「取引先が一方的に決定した」が30.6%で最も低い)です。反対に、報酬額の決定について最も発言できていないのは「兼業(独立自営業が副業)」(「取引先が一方的に決定した」が38.7%、「あなたや取引先以外の第三者が決定した」が12.6%で最も高い)となっています。
フリーランスなどの報酬額を決める際の注意点
上記のとおり、業務を委託するフリーランスなどの報酬額をどのように決めるのかについては、その業務内容や個別の状況によって異なります。では、業務を委託する企業側はどのような点に注意すればいいのでしょうか。
専門的な業務を委託する場合
フリーランスや副業人材などに、IT関連やその他技術系、クリエイティブ系などの専門的な業務を委託するケースでは、もともと自社と付き合いのある方か、取引のある会社、または、エージェントから紹介された方に依頼することが多いようです。(クラウドソーシングサイトなどで対応してもらえる方を探すこともできますが、期待している結果を出してもらえないなどのリスクが高くなります。)
これらの専門的な業務に従事し、完全に独立している方であれば、業務ごとに報酬額を設定していることがほとんどです。まずは本人、あるいは、エージェントに報酬額を提示してもらって、その額を基準に交渉することが一般的と言えます。
事務関連の業務を委託する場合
人事や経理などの事務関連の業務を外部人材に委託することも増えています。これらの業務については、クラウドソーシングサイトなどで対応してもらえる方を探すことが多いといえます。
クラウドソーシングサイトなどを活用するのであれば、業務ごとの報酬額や時給単価の相場を知っておく必要があります。(多くのクラウドソーシングサイトでは、業務ごとの報酬額の相場が示されています。鵜呑みにして合わせる必要はありませんが、目安にはなると思います。)
あまりに低い報酬額を提示すると、まったく応募がないか、応募があったとしても経験値が低い方しか集まりませんので注意が必要です。
予算が決まっている場合
使える予算が決まっている場合には、その予算額の範囲内で報酬額を決めることになりますので、それで対応してくれる人材を探すしかありません。
予算額が報酬額の相場以上の額であればよいですが、報酬額の相場よりも低い額である場合には、委託する業務の内容を見直し(縮小)することが必要です。もしそれが無理であれば、そもそもその予算額では業務を委託することは難しいと言えます。
相場よりも低い報酬額にする場合
フリーランスなどは労働基準法上の労働者には該当しないため、いわゆる最低賃金は適用されません。このため、報酬額は自由に決めることができ、その額で双方が納得する限り契約は有効なものになります。
ただし、フリーランスなどは下請事業者として、下請法(※)、および、独占禁止法によって保護されており、同種や類似の業務に対して通常支払われる報酬額と比べて著しく低い報酬額とすることは、これらの法律に抵触する可能性がありますので注意が必要です。
※対象となる親事業者と下請事業者の資本規模(親事業者については1千万円超)や取引内容などが定められているため、適用されないこともあります。
まとめ
業務を委託するフリーランスなどに支払う報酬額を企業側が決める場合は、業務の専門性などを考慮してその業務に見合った報酬額にすべきです。(低い報酬額ではそれなりの業務しかしてもらえないということです。)
また、委託する業務によっては、エージェントやクラウドソーシングサイトなどの使い分けが必要になることもありますので、報酬額の相場なども把握しておくようにしましょう。
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士