偽装請負とは一般的に、形式上は請負契約などの業務委託契約を締結して、その実態は労働者派遣であるものを言います。しかしながら、偽装請負にはさまざまなパターンがありますので具体的にどのような場合が偽装請負と判断されるのかについては十分に理解しておく必要があります。
この記事では、偽装請負の代表的パターンや偽装請負に該当するのかどうかの判断基準、また、偽装請負とみなされないためのポイントについて解説します。
偽装請負の代表的パターン
偽装請負にはさまざまなパターンがありますが、まずは、代表的な事例として、東京労働局が整理している4つのパターンを紹介します。
代表型
形式上は業務委託契約を締結して、委託側が受託側の労働者に細かな指示を出したり、出退勤や勤務時間の管理を行ったりしているなどの典型的なパターンです。
形式だけ責任者型
業務委託契約を締結して、受託側は現場に責任者を置いているものの、その責任者は委託側の指示をそのまま自己の労働者に伝えるだけであり、実態は委託側が受託側の労働者に指示を出しているパターンです。比較的、契約上の業務が単純なものである場合にこのパターンになってしまうことが多いと言えます。
使用者不明型
業務委託契約を締結したものの、受託側は受託した業務を別の会社に再委託し、その別の会社に雇用されている労働者が委託側の現場に派遣されているケースです。委託側や受託側の指示によって業務を進めることになり、誰が使用者であるのかが明確でなくなってしまっています。
1人請負型
他社から従業員として採用すべき者を紹介されたものの、紹介された会社がその者と雇用契約を締結せず、個人事業主として業務委託契約を締結して、自社の指揮命令下に置くパターンです。
なおこの場合、他社から紹介された者ではなく、自社で探し出した個人事業主やフリーランスと業務委託契約を締結して自社の指揮命令下に置くパターンも偽装請負と言えます。ただしこの場合は違法派遣ではなく、偽装雇用(ここでは、本来は雇用である状況にもかかわらず請負契約をしているケースを指します)という別の問題になります。
※参考:東京労働局「あなたの使用者はだれですか?・偽装請負の代表的なパターン」
偽装請負に該当するのかどうかの判断基準
偽装請負に該当するのかどうかの判断基準としては、職業安定法施行規則第4条の規定と、厚生労働省が整理している「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準(昭和61年4月17日労働省告示第37号)」があります。
職業安定法施行規則第4条
まず、職業安定法施行規則第4条においては、労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣事業を行う者を除く。)は、たとえその契約の形式が請負契約であっても、次のすべてに該当しなければ、労働者供給(原則として禁止されており、特例的に認められている労働者派遣よりも広い意味で定義されています。)の事業を行う者とするとされています。つまり、偽装請負とみなされると言うことです。
以下は、請負契約上の請負側(受託側)から見た、偽装請負とみなされないための要件です。(以下すべてを満たしている必要があります)
- 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること
- 作業に従事する労働者を指揮監督するものであること
- 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること
- 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
※参考:e-Gov法令検索「職業安定法施行規則」
厚生労働省の判断基準
また厚生労働省では、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)(最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)」というものを示しています。
この判断基準では、請負の形式による契約で業務を行う事業主であっても次のすべてに該当しなければ、労働者派遣事業を行う事業主とするとされています。つまりこれもまた、偽装請負とみなされると言うことです。
以下は、請負契約上の請負側(受託側)から見た、偽装請負とみなされないための要件です。(以下すべてを満たしている必要があります)
1. 受託側が自己の労働者に対して指揮命令を行うこと | (1)業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと |
①業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと |
②業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。 |
||
(2)労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うこと |
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を自ら行うこと |
|
②労働時間を延長する場合又は休日に労働させる場合における指示その他の管理を自ら行うこと |
||
(3)企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること |
①服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと |
|
②配置等の決定及び変更を自ら行うこと |
||
2. 受託側は請負業務を委託側から独立して行うこと | (1)業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること | |
(2)業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと | ||
(3)単に肉体的な労働力を提供するものでないこと |
①自己調達の機械、設備等を使用して業務を処理すること |
|
②自らの企画、専門的な技術、経験に基づいて業務を処理すること |
※参考:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」
これを委託側から見ると、以下のようになります。
受託側が労働者に対して行うこと
■業務の遂行に関する指示その他の管理
- 業務の遂行方法に関する指示、その他の管理
- 業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理
■労働時間等に関する指示その他の管理
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理
- 労働時間を延長する場合又は休日に労働させる場合における指示その他の管理
■企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理
- 服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理
- 配置等の決定及び変更
委託側から独立して受託側が行うこと(受託側の責任、請負業務の性質)
■業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁(※)している
■業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負っている
■単に肉体的な労働力を提供するものでないこと(以下いずれか)
- 自己調達の機械、設備等を使用して業務を処理するもの
- 自らの企画、専門的な技術、経験に基づいて業務を処理するもの
※支弁:金銭を支払うこと
つまり、業務に関する報酬の支払いや法律上の責任は受託側にあり、そのため業務の遂行方法や評価、労働時間、休日については受託側で決める必要あるということです。
受託側は企業も労働者もなかなか委託側に逆らうことはできません。上記に反するようなことが行われていないかどうかきちんと確認、注意を払うようにしてください。
偽装請負とみなされないためのポイント
偽装請負とみなされれば、業務委託契約上の委託側と受託側に悪意があったかどうかにかかわらず、双方が法的に責任を問われます。
最後に、偽装請負とみなされないために注意すべきポイントについて説明します。
業務委託契約と労働者派遣契約の違いを理解する
偽装請負になることを承知したうえで、労働者を派遣する業務委託契約の締結をもちかけてくる悪質な業者も存在します。
意図せず偽装請負にならないためにも、請負契約や準委任契約などの業務委託契約と労働者派遣契約のそれぞれにおける、労働者に対する指揮命令権や契約目的、当事者に求められる責任などの違いは十分に理解しておかなければなりません。
契約書で業務委託であることを明確にしておく
意図せず偽装請負になることを防ぐためには、あらかじめ、業務委託契約書に次のような事項(厚生労働省の判断基準のうち基本的な事項)を明記して、あくまでも業務委託であることを明確にしておく必要があります。
- 受託側の労働者に対する業務の遂行にかかわる指示は受託側が行うこと
- 受託側の労働者に対する労働時間等にかかわる指示は受託者が行うこと
- 業務の遂行に要する資金は受託側で調達すること
なお、業務委託契約書に限った話ではありませんが、契約書は相手方が作成することもあります。この場合、相手方が作成、提示してきたものに上記の事項が明記されていなければ明記を求める必要があります。
就業環境を工夫する
委託側が受託側の労働者を自社に常駐させる場合、たとえ委託側と受託側の労働者が混在して業務を進めていたとしても、受託側の労働者が委託側の指示を受けず、独立的に業務を行っているのであれば偽装請負とはみなされません。
しかしながら、委託側と受託側が容易にコミュニケーションを取れる状況では、意図せず偽装請負とみなされる状態になってしまう危険性が高まります。可能であれば、就業場所を分けたり、同一フロアでもパーティションなどで区分したりするなど、就業環境としての工夫も必要です。
まとめ
偽装請負とみなされないためには、まずは、請負契約や準委任契約などの業務委託契約と労働者派遣契約がどのように違うのか、また、職業安定法施行規則や厚生労働省の判断基準を理解しておかなければなりません。
そのうえで、あらかじめ、契約書において業務委託であることを明確にしておくことが求められますし、受託側の労働者を自社に常駐させる委託側としては、受託側の労働者と一定の距離を置くような就業環境の工夫も必要です。
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士