企業がフリーランスや副業人材などの個人に業務を委託することが増えています。多くの企業では法律に則った誠実な対応をしている一方で、契約書すら作成せずに業務を委託しているケースもあり、報酬の支払い遅延などのトラブルも起こっています。
無用なトラブルを避けるために、業務委託契約書に報酬額やその支払いなどについてどのように記載すればよいのか、また、その他の注意点について解説します。
もくじ
報酬額は確定額か計算方法を記載する
委託する業務の報酬額を契約書にどのように記載するのかについては、次の2通りに分かれます。
一般的には確定額を記載する
報酬額について、一般的には、報酬あるいは委託料などとして「金〇〇万円」などとして確定額を記載します。
計算方法を記載することもある
委託する業務によって契約段階で報酬額として確定額を記載できない場合は、次のように報酬額の計算方法を記載します。
委託業務の例 |
報酬額の計算方法の記載例 |
補足 |
ライターに依頼する原稿作成 |
「1記事あたり〇万円」、「1文字あたり〇円」など |
基本契約書では左記のように記載し、案件ごとの個別契約書(発注書)では、おおよその文字数を指定して「金〇万円」などとすることもあります。 |
弁護士に依頼する法律案件の対応など |
「1時間あたり〇万円」 |
一般的に「タイムチャージ方式」と言います。 |
サイト運営代行業者に依頼する自社製品の販売など |
「総売上額の〇%相当額」 |
一般的に「レベニューシェア方式」と言います。 |
少なくとも下請法が適用される事業者である場合には、その書面の交付が義務付けられています。(下請法に関する対応については記事の最後に説明します)
なお、上記のように契約書で報酬額ではなく計算方法を記載した場合には、報酬額が確定した時点で、あらためてその額を記載した書面をフリーランス側に交付すべきです。
報酬の支払期日・支払方法を明確にしておく
報酬の支払期日や支払方法については、次の項目を明確にしておく必要があります。
支払期日の記載方法
一般的な報酬の支払期日としては、フリーランス側からの物品の納品、または、役務の提供があった「翌月末日まで」としていることが多いようです。
支払期日については、このあと説明する下請法では、発注した物品を受領、あるいは、役務の提供を受けた日から60日以内、かつ、できる限り短い期間内で定めることとされています。これを参考に、あまり先にならないように設定すべきだといえます。
支払方法の記載方法
報酬の支払方法については、基本的にはフリーランス側が指定する銀行口座に振り込むことを記載し、あわせて、振込手数料をどちらが負担するのかについても記載しておきます。
ちなみに振込手数料は、民法上の整理(民法第485条)では、双方に別段の意思表示がなければ、債務者(委託側)の負担とされています。
源泉徴収が必要な場合にはそのことも記載する
源泉徴収とは、給与・報酬の支払者が、支払う給与・報酬からあらかじめ所得税を差し引いて納税することです。所得税法上、フリーランスのような個人に次のような報酬を支払う場合には源泉徴収をしなければならないことになっています。
- 原稿料、デザイン料、講演料
- 弁護士や司法書士、公認会計士、税理士などその他士業に支払う報酬 など
上記のような業務を委託する場合には、契約書に報酬額またはその計算方法を記載するとともに、「源泉徴収税〇〇〇〇円を振り込み時に差し引く」などと記載します。
源泉徴収の対象となる報酬や料金などの詳細については、国税庁のホームページでご確認ください。
※参考:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
消費税額と報酬額は分けて記載する
契約書の報酬額に消費税額の記載がなければ、一般的には消費税額も込みと考えます。ただしトラブルを避けるためには、消費税額がわかるように「金〇〇万円(うち、消費税額〇〇〇〇〇円)などと記載しておくべきです。
消費税額を明確にしておいた方がよい理由としては、フリーランス側が請求書を作成するときにわかりづらいほか、次のような理由もあります。
理由(1)源泉徴収との関係
源泉徴収の対象となるのは、原則として、消費税額も含めて報酬として支払った全額が対象となります。しかしフリーランス側からもらう請求書において、報酬額と消費税額が明確に分けられている場合には、報酬額のみを源泉徴収の対象とすることができることになっています。
上記で説明した源泉徴収の対象となる業務に従事しているフリーランスは、一般的に報酬額と消費税額を分けて請求書を作成するため、契約書においても分けて記載しておくのが親切です。
理由(2)印紙税との関係
何かしらの成果物を納品してもらう請負契約と、一部の委任・準委任契約では、その契約金額に対応する収入印紙を貼付しなければなりません。この印紙税も契約書に報酬額と消費税額を分けて記載している場合には、報酬額のみが課税対象となるため、契約書には報酬額と消費税額を分けて記載しておくべきだと言えます。
印紙税の課税対象となる文書は、第1号から第20号まで分けられていますが、業務委託契約書で該当するものは、基本的には第2号文書の「請負に関する契約書」と第7号文書の「継続的取引の基本となる契約書」(委任契約でも該当する場合あり)です。
第2号文書と第7号文書の契約金額ごとの印税額については、次の印紙税額一覧表(国税庁)でご確認ください。
※参考:国税庁「印紙税額一覧表」
契約締結時・締結後も下請法に抵触しないように注意する
下請法とは、一定の資本規模を有する親事業者と下請事業者(親事業者については資本規模1千万円超)の特定の取引(製造委託や役務提供委託など)において、下請事業者の利益を保護するための法律です。
業務委託契約において、この下請法がすべての事業者に適用されるわけではありませんが、業務を委託する側としては、抵触しないように注意しなければなりません。
※下請法が適用されない場合には、独占禁止法が適用されることもあります。
親事業者として禁止されている行為
下請法では、親事業者の禁止行為が規定されていますが、報酬(下請代金)に関するもので言えば、次のような行為が禁止されています。
- 通常よりも著しく低い下請代金とすること。
- 下請代金の支払いを遅延すること。
- 下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に定めた下請代金を減額すること。
契約書を作成する段階では、報酬額の相場を調査したうえで、フリーランス側の希望も聞いて著しく低い報酬額としないようにしなければなりません。
報酬はできる限り迅速に支払わなければならない
下請法上では、フリーランス側から発注した物品を受領、あるいは、役務の提供を受けた日から60日以内、かつ、できる限り短い期間内で定めなければならないことになっています。
契約書とは別に「補充書面」の交付が必要なこともある
下請法第3条では、下請事業者の給付の内容や下請代金の額、支払期日、支払方法その他の事項を記載した書面(これを一般的に「3条書面」と言います。)を下請事業者に交付しなければならないことになっています。
契約書で、上記の内容をすべて記載すれば、その契約書を3条書面とすることができます。しかし最初に説明したように、契約書ではあらかじめ報酬額を確定できない場合(計算方法を記載している場合)もあります。この場合には3条書面として完全ではないため、報酬額が確定次第、直ちにその額を記載した書面(これを一般的に「補充書面」と言います。)を交付しなければなりませんので注意が必要です。
まとめ
フリーランスや副業人材などの個人に業務を委託する企業の中には、対法人でないこともあり、報酬を支払期日までに支払わないなど、その扱いを軽視している企業も少なからず存在します。
フリーランスなどとのトラブルを避けるためにも、契約書では報酬額や支払期日、支払方法などについては必ず明確にしておき、双方で確認しておくようにしましょう。
人事・労務系ライター 本田 勝志(ほんだ かつし)
中央省庁や企業(労務担当)、社会保険労務士事務所での勤務を経て、現在は人事・労務系ライターとして各種HR系サイトの記事執筆に携わる。 社会保険労務士有資格者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士